生活綴られ方練習

不鮮明な料理

まだまだ誕生日気分で、原稿の締め切りも少し先だからと、確定申告などをしながらのんびりと過ごしている。最近、夕食後にぱらぱらと読んでいる『幻の麺料理 再現100品』(魚柄仁之助、2023年、青弓社)に、「タンバール」という名の謎パスタ料理が出てきた。本作のために、明治から昭和にかけての古いレシピを実際に自分で料理して食べてみるという調査をまとめた著者は、雑誌にレシピが掲載されているからといって、必ずしも同時代に普及していたとは限らないと釘を刺しているが、早くは大正期から戦後の高度経済成長期まで複数のレシピにこのタンバールなる料理名が残っているということは、一定の認知を得ていたということだろうか。レシピの一例を要約すると、茹でたロングマカロニを、バターを塗った湯のみ茶碗の内側に沿って底の方からぐるぐると土器を作るように巻いていったところに、ひき肉や卵、パン粉などをこね合わせたものを詰めて蒸す、蒸し上がったらひっくり返してカレーソースをかけて食べるといった具合です。今書いていても頭の上をクエスチョンマークが巡回しますが、要はパスタ生地で包んだハンバーグにカレーをかけているような感じで、子供の好きそうな洋食3種を混ぜ合わせたようなもので、確かに味は悪くなりようがないと思いつつも茹でたマカロニを蒸した食感はどうなのだろうと首を傾げてしまう。お椀状に盛り上がったマカロニにカレーソースがかかっているという、今でいうなら「映え」が意識されて考案されたレシピなのかもしれない。それにしても気にかかるのがタンバールという名前がどこから来たのかということ。ラザニアやラビオリなど、詰め物パスタに似た名前であればまだ得心がいきそうなもの。スペルも分からないのでカタカナで検索してもライカのレンズや中東の弦楽器ばかりが出てくる。レンズの「タンバール」の方の語源はというと、ライカのウェブサイトによれば「名前の正確な由来は不明ですが、古代ギリシャ語で「ぼやけた、不鮮明な」を意味する「thambo」から来ているとされています」とのことで、パスタなのかハンバーグなのか、はたまたカレーなのかが「不鮮明な」料理として名付けられたのであれば、そんなことはきっとないのだろうけれど、ちょっとおしゃれだなと思う。

< 前の記事へ