生活綴られ方練習

ムーンシャイン

美術系の文脈ではあるのだけれど自動車に関係する取材の依頼をいただいて、車に関する知識が壊滅的にないものだから逡巡する。依頼主に事情を説明するも、むしろ車に詳しい人のみに向けた記事ではないから是非に、とのことだったので心配しつつも引き受けることに。とりあえず本屋でアンチョコ本を探す。何が分かっていないかすら分からない分野なので、とりあえず本棚をすみからすみまで見て、『カー機能障害は治る』(松本英雄、2004年、二玄社)『日本の道路122万キロ大研究 増補改訂版』(平沼義之、2021年、実業之日本社)を購入。前者はガソリンエンジンなどをはじめとする自動車技術を知ることで運転の技法を考え直そうというもの。二玄社というと書道の専門出版社という印象だったけれど、たしかに車の雑誌なんかも出していたっけ。後者は八十里越街道についてのウェブ記事なども執筆されている著者による「オールアバウト日本の道路」といった具合のもので、言われてみれば道路というものも道路法などの法律で起点や終点、様々なルールが規定されているため、必然的に法律に関する記述が多くて面白い。実業之日本社の新書「じっぴコンパクト」を初めて買った。まだまだ知らない本の世界がある。まったく不案内なジャンルの現状について学ぶときに、技術や制度について知ることはきっと良い足がかりになるだろうと思いこの2冊を買ったが、車を文化として考えるためにはもう少し抽象度の高い話も読んでみたいと思い、『馬・車輪・言語』(上下巻、デイヴィッド・W・アンソニー、東郷えりか訳、2018年、筑摩書房)にも手を出す。そのほか、これも近々控えている仕事の手助けになるかもしれないと『はじめての釉薬』(やきもの釉薬研究会編、2013年、廣済堂出版)も。大雑把にしか把握していない釉薬について、一度整理しておきたいと思っていたのでちょうど良い。

本屋の後には、すぐ近くにあるサイゼリヤでワインを飲みながら読書や仕事を。松本駅前のアルピコプラザというビルの7階に入居するこのサイゼリヤは、西側が一面大きな窓になっていて、北アルプスの威容を望む絶景のサイゼリヤなのです。持ってきた本や買ったばかりの本を巣作りみたいに広げてワインを飲んでいたら、右隣の席に案内されたのがつい先日も夜の散歩でばったり出会った友人。席と席との仕切りの下から互いにグラスを差し出し、禁酒法時代ならそのようにしていたかもしれない乾杯をそそくさと済ませた彼が帰った後に、今度は左隣の席にまたも別の友人が案内されて、さすがにそんなことあるのかと笑ってしまう。ひと仕事を終えたささやかな打ち上げに来たとのことで、その祝宴に僕も混ぜてもらって楽しい時間を過ごした。禁酒法時代の密造酒のことを、月明かりの下でこっそりと造っていたことから「ムーンシャイン」と呼ぶそうで、素敵な呼称だなと思う。この日の月は下弦の月だったものだから、かなり遅い時間の醸造になって密造する人も大変だななんて考えたりしながら帰途に着いた。

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