生活綴られ方練習

마르코프차 /марков-ча

七十二候「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」。腐った草がホタルになるという少し不思議な候は、暑い初夏の梅雨に蒸された草いきれから飛び立つホタルの様子を比喩的に表したのかどうだか知りませんが、いくら発酵の力がすごいからといって、さすがに植物が昆虫にはなりゃしません。そんな時期に、僕はといえば久々に大量のラッキョウを塩漬けしまして、後はうまく発酵が進むのを待つばかり。塩漬けするだけであんなに深みのある酸味が出るのですから、乳酸菌というのは実に偉いものです。表彰したいくらい。

先日の東京で訪れたウズベク料理店でも新たな発酵系の料理を知り、何とか味を再現できないかと試してみたりもした。簡単にいえば、千切りの乳酸発酵させたニンジンをニンニクや唐辛子、コリアンダーなどのスパイスとともに酢と油で和えたマリネサラダといった具合ですが、「マルコフチャ」というその名前は、「マルコフ」がロシア語で、「チャ」が朝鮮語の変種である高麗語だというから面白いではありませんか。「マルコフ」はニンジンを意味するそうで、マルコフ連鎖やマルコフニコフ則などの影響から厳めしい印象のあった「マルコフ」という音も、「何だニンジンか」と思えばアンドレイ・マルコフもウラジーミル・マルコフニコフも途端に親しみやすく感ぜられますね。本当に?

面白いのは残りの「チャ」の方で、こちらはキムチなどに代表される、ご飯と一緒に食べるおかず、すなわちパンチャンのことのようです。このニンジンのキムチとでも呼ぶべきマルコフチャは、Wikipediaによると広く旧ソ連国でポピュラーな料理だそうで、ソビエト時代に移り住んだ朝鮮系の人々が当地で手に入れづらい白菜の代わりにニンジンでキムチを漬け始めたことがそもそもの発端のようです。中央アジアにはそうした朝鮮系のコミュニティがかなり多いらしく、たしかに2019年にウズベキスタンを旅行したときもソウルのインチョン空港からアシアナ航空の直行便で、ウズベキスタンと韓国は歴史的に深いつながりがあるというような説明を誰かから受けた気がします。ちなみにアシアナ航空の機内食で出てくるチューブのコチュジャンもとても美味しい発酵。あとはブハラの街を散歩中に小学生くらいの女の子たちに「Do you know BTS?」と訊かれたりもしたけど、それはあまり関係ないか。

何はともあれ、そうした政治や経済など大きな枠組みの影響で移住した人々が、現地の風土に合わせて自身のルーツである文化が持つ風俗を柔軟に変化させていくというのは、なんだかとてもたくましい庶民の表現という感じがする。ことほどさように、人と人、文化と文化が混淆するところには面白いものが生まれてくるものだと、なかば強引に話が変わるのですが、10日(土)に参加した信州アーツカウンシルの交流会に参加してみても同じことを思ったり。発足から1年を経た活動報告の場として開かれた会ですが、アーツカウンシルに支援された団体が数多く参加していて、ただ助成金を出すだけでなく長野県中に点在する団体が交流できる場を用意しているのは素晴らしいことだと感じる。なんだか信州アーツカウンシルはとても良さそうですよ。

< 前の記事へ