生活綴られ方練習

ウイグルの串

少し前になるが、松本の友人たちとタイ料理屋で新年会のような夜を過ごす。5人いた参加者の全員が自営業者で、飲食店をしている人もいれば演出家をしている人もいる。松本で店を出す際に、ある中華料理屋の店主に挨拶に行くと必ず「絶対に儲かるからウイグルの串を売れ」と助言されるという話を聞いて笑う。レコード屋をやろうという人にまで「ウイグルの串」を勧めるのだそうで、レコードも串も回すからその共通点に小さな可能性を見出したのだろうか。

「ウイグルの串」というのは中国語でなら「烤羊肉串(カオヤンロウチュアン)」のことだろうが、最近は東京でも出す店を多く見かけるようになった。ラム肉にクミンなんて合わないわけがないのだけれど、中華料理のサブカテゴリーとして認識されているだろう新疆料理の烤羊肉串と同じような味付けで、ウイグル人たちがそのルーツとなった「ジク・カワープ」を楽しんでいるかどうかについてはちょっと疑問が残る。ウイグル語で「ジク」が「串」で、「カワープ」が「肉」を指すというシンプルな名前のこの料理は、トルコでは「シシュ・ケバブ」、インドでは「シーク・カバーブ」と呼ぶそうだ。たしかに漢民族からすればウイグル人の串料理に違いないだろうが、味付けについては地域で随分と異なるのではと想像する。シーク・カバーブのあるインドのお隣ネパールで、串焼き料理を「セクワ」と呼ぶのが長らく不思議だったが、デリー銀座店のブログで「英語のSkewer=串からきているのでは」という説を見かけて膝を打つ。旧ソ連圏では、中東欧から中央アジアまで広く「シャシリク」という言葉でこの料理を呼んでいるのだから、イギリス領だったネパールに英語由来の料理名があっても不思議はないように思う。「シャシリク」は、トルコ語やアゼルバイジャン語と同じテュルク語系のクリミア・タタール語からの借用だそうで、2019年に行ったウズベキスタンで食べたシャシリクもとても美味しかった。特にブハラでは、遊牧民の居住テント「ユルタ」で食事を出すレストランで食べられたことも良い思い出になっている。

買った本を忘れないためのメモ。「ウイグルの串」が気になったからというわけでもないが、テュルク系民族のことをもっと知りたくて『新版 トルコ民族の世界史』(坂本勉、2022年、慶應義塾大学出版会)。『羊皮紙の世界』(八木健治、2022年、岩波書店)には実際の羊皮紙が付録として付いている。は可愛くて美味しくて役に立つ偉い生き物だ。『〈聖なるもの〉を撮る』(港千尋・平藤喜久子編、2023年、山川出版社)、『WORKSIGHT 23号 料理と場所 Plates & Places』(ヨコク研究所+黒鳥社編、2024年、学芸出版社)は、普段あまり接することのない情報に色々と触れてみたくて。「お腹がすく」回だ。

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