蟹座は水の宮の首位を占める星座であり、この星座に太陽を持つ人に防衛本能と保育の精神を授けます。支配星の月は、外界に対する敏感な反応と起伏の激しい感情を授けます。
藪から棒に引用をしたのはルル・ラブア先生の手になる大著『占星学』(実業之日本社、1995年、新装版2017年)ですが、西洋占星術に関する基礎テキストとしては申し分なく、たしかに少し古い内容でもあるのでしょうが、ほんの手遊びに星を読みたいだけの僕などにはこの一冊さえあればもう十分過ぎるといった具合です。古代バビロニアに起源を持つともいわれる西洋占星術を好きなのは、もともと幼少の頃より星や神話が好きだったというのもありますが、昔の人々が宇宙の真理や人間の本質などを何とか説明しようとする、その考えの筋道に強い関心を持っているというのが本当かもしれません。何かの理由を星並びのせいにして諦めてしまう、というライフハックもいい加減な僕の気に入るところでもあります。「水星を水瓶座に持つのでおしゃべりなのは仕方がない」「『勤務の室』である第6室にも『職業の室』である第10室にも一つも天体が入っていないから勤労意欲がないのも当然」などと都合のいいことばかりをあげつらって、これはもはやホロハラ、つまりホロスコープハラスメントの類と見て間違いないでしょう。
ホロスコープというのは、ギリシャ語の「時」を表す「ホラ」と「見張り番」を意味する「スコポス」から成る語だそうで、はなはだWikipedia的な真偽不明な情報で恐縮ですが、昔はこの「ホロスコポス(時の見張り番)」という名前でアセンダントのことを指していたともいわれているようです。アセンダントというのは日本語で上昇宮とも訳されるもので、生まれた時間に東の地平線を昇ってくる星座、くらいのざっくりとした認識でいいんですが、西洋占星術ではここに位置する星座によって個人の容姿といった外見的な特徴やペルソナ的な行動が左右されると考えられていて、太陽の星座や月の星座に匹敵する重要な要素になっています。上述のルル・ラブア先生のご本でも、たとえば蟹座の上昇宮の項目には、容貌として「丸くて潤んだ印象的な目。女性はぽちゃぽちゃとした丸い感じで、愛嬌があって人を惹きつける」だとか、行動としては「過去を懐かしむ。立腹すると殻に閉じこもる。感情の吐け口(ママ)として泣くことが必要」などと書かれていて、その細かさに驚いたものです。面と向かって言われたら嫌そうなことなども執拗に書いてあるのですが、ここでは取り上げません。知りたい方は、個人的にご連絡をくださいましな。
太陽や月などの天体や、魚座や蟹座といったサイン(宮)についての詳解はもちろんのこと、ハウス(室)や、アスペクト(座相)、ディグニティ(格式)など、本当は大事なんだけどちょっと難解な事項についても実践的に記述されていて、適当に開いたページを読むだけでも楽しい便覧的な本でもあります。個人的には、それぞれの星座に支配星と呼ばれる天体が対応しているという考え方が明快で気に入っており、蟹座の支配星は月、獅子座は太陽、乙女座は水星、天秤座は金星といった按配なのですが、1781年の天王星発見、1846年の海王星発見、1930年の冥王星発見にともなって、これら新参者がそれぞれ水瓶座、魚座、蠍座の支配星に就任しているというのが趣深いなと感じていたりします。それまでの支配星を担当していた惑星は後見人とでもいうべき立場になっているようなイメージで、時代とともに占星術が世界を説明する方法も移ろう様子に人間の苦労が見えて何だか面白いのです。きっと新発見のたびに占星術師たちの間で議論が紛糾するのでしょう。占い師によっては冥王星のさらに外側を巡るエリスを天秤座、火星と木星の間の小惑星帯にある準惑星ケレスを乙女座の支配星として扱ったりする人もいるのだとか。
星座はその支配星からの影響を強く受けると考えるわけですが、それぞれの星座の時期をさらに3つのデーカン(旬)に分けて、旬ごとに本来の支配星とは異なる星からも影響を受けるのだそうで、一つの旬が天球の10度(360÷12÷3)にあたるので太陽なら約10日で1つの旬を移動、デーカンとかデークとか呼ばれるのもギリシャ語の「デカ(10)」が由来でしょうね。第一デークのみ、本来の支配星だけの影響を強く受けるので、ちょうど今の時期にあたる蟹座の第一旬の太陽は、ラブア先生の言葉を借りれば「月の影響を二重に受け」る、と。いわく「蟹座生れのなかでもことにロマンティックなタイプで、親切で優しく、愛嬌と社交性があって周囲に楽しい雰囲気を作り出します」とのことです。ちなみに支配星からは悪い影響も受けてしまうので、本来の支配星である海王星に加えて月の影響も受ける魚座の第2デーク生まれの僕なんかは「月の否定的性質が現れると、移り気で気ままとなり、統一のとれた行動ができなくなります。空想に溺れて現実的な処理能力を失い、役立たずの人になってしまいます」。空想に溺れて現実的な処理能力を失い、役立たずの人になってしまいがちです。何せ、お星さまのお決めになったことですからねえ。