生活綴られ方練習

曇天に三日月

これを読んでいるあなたは、この世に生まれ出たとき、どんなことを心に思いましたか?僕はといえば、「話が違うじゃないか」と思いました。

ここ最近は珍しく遠出をせず、大人しく(なぜなら大人だから)信州松本でのんびりと。日がな一日ラジオを聞いたり、大きな公園の中にある小さな図書館に出かけたり、友人を誘ってスナックに行ったり。いつだったか、ふとした時に「ラジオでもあり図書館でもありスナックでもあるような場所をやりたいな」と思いつき、自分でも一体それは何なんだと訝しんでいるのですが、つまるところはちょっぴり寂しそうだったりつまらなさそうだったり、そんな風にしている人たちの居場所をつくりたいのかもと、スナックで内海美幸 『酔っぱらっちゃった』(学生時代によく行ったスナックのマスターの十八番)を熱唱しながら考えてみたりもしました。

すでに酔っぱらった状態でスナックにやってきて、特段に喋るでもなく呑むでもなく唄うでもなく(飲み放題、唄い放題、料理もついて3000円ポッキリ!)、ただただ時間を過ごすだけなのに毎日のようにやってくる常連ヘベレケお爺さんたちを見ていてそんなことを思ったのは、ちょうどその前にオンラインでも視聴可能なイタリア映画祭で観た『スイングライド』に出てくるベネデッタとアマンダという2人が、まさにそんな社会から少しだけ疎外されたようなキャラクター(ヘベレケお爺さんではない、念のため)として描かれていたからかもしれない。

ラジオというのは、あえて言ってしまえば深夜ラジオのことで、毎夜毎夜「あなたとこんなにも似た感じ方や考え方をしている人が、ほらここにもいますよ」というメッセージを送り続けているようなもので、あんなちっぽけなラジオひとつでどんなシチュエーションをも居場所にしてしまうのだから、それはそれは凄いからくりです。だからNHKの『みんなの子育て☆深夜便』や『みんなでひきこもりラジオ』みたいな番組は、名前はともかく(求められているのは「みんなの」ではないはず)ラジオの良さを実によく分かっている人の企みと言うべきでしょう。ともかく『ラジオ深夜便』は2番目に好きなラジオ番組です。1番はもちろん『ひるのいこい』です、誰が何と言おうと。

図書館が居場所というのは、あの開館と同時にやってきて閉館まで各社の新聞を隅から隅まで舐め回すように読んでいる定年後おじさんを見ても明らかなことで、でも本当を言うと図書館だけは子供たちにとっての居場所であることが第一義であってほしいと思う。あるいはホームレスの人たちの。そのために図書館がどうなる必要があるかということをアントネッラ・アンニョリさんが書いているという話は前にも書きました。本というものには、人生の危機に立ち向かうだけの知識や勇気を与える力もあるけれど(東京で一番好きかもしれない古本屋「ほん吉」さんに「ごはんの炊き方から人生の危機まで」という最高の謳い文句がありまして)、自ら命を絶つほどの絶望的な孤独でなくても、なんだかいつも世の中に対して「話が違うじゃないか」と思っているような人にとっての居場所をつくりたいと、ここで本当なら書くべきなんでしょうけど、書いてて思ったのは、これ老後の僕のための居場所を求めているだけかもしれない。そもそも放浪癖がある僕に、一つの場所を運営するなんてとてもできそうにないという目下の問題もある。とはいえ、やりたい気持ちはあるので誰か一緒にやりましょう。大変なこと以外なら何でもやります!

夏至だというのに今日は曇天で、一年で最も長く太陽が出ている夏至から始まる巨蟹宮(かに座)の支配星が月というのは、考えてみればちょっと不思議な気もする。三日月はせっかちだから、もう沈もうとしています。

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