生活綴られ方練習

分かるような分からないような

カモシカスポーツという山好きの間では有名らしい登山用品の専門店が年に1回開くイベント『かもフェス』に行く。せっかく松本に住んでいるのだからと、山カルチャーについては関心を持ち続けているのですが、ただただ持ち続けているだけで相変わらず書斎派の山好きなもので、登山用品というものにもとんと縁がなく「あの道具は何に使うものなのだろう?」などと首をかしげながら、結局のところ買ったものといえば食べられるものばかりでした。

僕よりも先に松本に移住して『かもフェス』に誘ってくれた友人や、たまたま東京から遊びに来ていた友人らと一緒に行っていて、そこで話題に上って面白かったのが「倉頡輸入法(そうけつゆにゅうほう/ツァンチェーシュールーファー)」というコンピュータ上で漢字を入力する方式のこと。香港で主に使われているとのことで、中国本土の多くで使用される簡体字ではなく繁体字に関する入力方法だと思われる。一つの字をいくつかのパーツに分けて、その要素に対応するキーボードを叩いていくという仕組みで、たとえば「真」という文字なら「十」→「月」→「一」→「金」と、あるいは「実」であれば「十」→「手」→「大」、はたまた「子」ならば「弓」→「木」といった具合でタイプしていくそうな。七曜に関するもの(日・月・火・水・木・金・土)や人体に関するもの(人・心・手・口)など、アルファベットと同じ26個の文字がキーボードに割り当てられているらしい。分かるような分からないような。

東京から来ていた友人の祖母はいわゆる「湾生」と呼ばれる日本統治下の台湾で生まれた人で、そういった話を聞けるのも面白い。台湾出身の店主がやっているスナックに連れ立って行った際も「ボポモフォ(ㄅㄆㄇㄈ)」という発音記号の話をたくさんした。台湾ではやはりこのボポモフォを用いた「注音輸入法」という入力方式が一般的で、簡体字を使う中国本土では拼音(ピンイン)を用いたラテン文字での入力が普通だろうから倉頡輸入法を使用する人は、その習熟の難しさも相まって少数派のようだけれど、一字に対するキータイプの数は少ないので覚えてしまうとより効率的にタイピングできるようです。

「倉頡」というのは蒼頡とも書いて、古代中国の黄帝に仕え鳥獣の足跡から漢字を思いついてしまったとされる伝説上の人物で、そんな人物の名前を冠したタイピング方式が20世紀も後半になって開発されているのは大変に好ましい話です。肖像画では目が4つある姿で描かれていることからも、蒼頡が神話的な存在だということが分かりますが、早くも淮南子には「昔者蒼頡作書,而天雨粟,鬼夜哭。(蒼頡が文字を作ったとき、天は粟を降らせ、鬼は夜に泣いた)」とあるそうです。倉頡輸入法と同じく、分かるような分からないようなという感じですが、文字によって人々の生活が豊かになり悪事も明るみに出るようになったというような解釈もあれば、天や鬼といった超自然的な畏怖すべき存在の力を人類が顧みなくなったという意味だという人もいるそうな。

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