生活綴られ方練習

まるで年末みたい

早くも1ヶ月近く経ちますが、ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞しましたね。小説を昔ほど読まなくなった僕も『ギリシャ語の時間』(斎藤真理子訳、2017年、晶文社)は読んだことがあって、突如として声を失った人物が、もう日常的に話されることのない古典ギリシャ語を学び始めるという状況からしてよくできていて、とても面白かった記憶がある。何より、受賞時点で邦訳で読める作品が結構な数があったことは、日本の書店にとっても喜ばしいことだったのではないだろうか。書店員だった頃のことを、懐かしい気持ちで思い出すことが最近は増えたように感じる。

最近のノーベル文学賞では、何といっても2018年のオルガ・トカルチュクの受賞がめっぽう嬉しかった。『昼の家、夜の家』(小椋彩訳、2010年、白水社)は、僕の乏しい読書人生のなかでも大好きな作品で、そんなに思い入れのある作家がまさかノーベル賞作家になるなんて予想だにしていなかったから、びっくりした。それ以前にも、読んだことのある作家がノーベル賞を取るということがないではなかったが、どちらかというと過去の受賞作家の作品をそれと知って読むという経験の方が多かったものだから、受賞ニュースなんかもいつも何だか別世界の出来事のように感じていた。書店員時代にも文芸は担当していないし、イギリスのとあるブックメーカーのオッズで金井美恵子さんが13位に急浮上していたというニュースもつい最近知ったほど。

そんなわけで、トカルチュクの場合は自分が好んで読んでいた作家が受賞するという初めての経験だったので、嬉しいというのか不思議な感覚です。ポーランドからは1996年にヴィスワヴァ・シンボルスカも受賞していて、彼女の翻訳者でもあるつかだみちこさんによるその名も『シンボルスカの引き出し』というエッセイ集にも「新しいポーランド文学の担い手 オルガ・トカルチュク」なる一編がある。港の人は、『かまくらブックフェスタ』という秋の鎌倉で開催されるイベントも主催していて、群像社エクリなどの硬派な出版社が出展するこのブックフェスタに、東京に暮らしていた頃の僕も随分とお世話になりました。ありがたいことです。

今年読んだ文芸書では、以前も少し触れたディーノ・ブッツァーティ『古森の秘密』(長野徹訳、2016年、東宣出版)と、レーナ・クルーン『蜜蜂の館』(末延弘子訳、2007年、新評論)が個人的に大好物でした。「群れの物語」というサブタイトルが示す通り、1900年代の初めに建てられた、かつて「心の病の診療所」だったという「蜜蜂の館」を舞台に、その古邸に集まってくる一風変わった人々の群像が描かれている。北海道に行くから寒そうな地域の小説を、と思って積んでいる本から雑な解像度でこの現代フィンランド文学を選んだのだけれど、想像を遥かに超える面白さで満ち足りた心地。

今年読んだ面白かった本、なんてまるで年末みたいなことを書きましたが、来年はもう少し文芸書を読みたいなと思う。今の世の中には、というと大袈裟ですが少なくとも僕には、真摯で切実な物語がもっと必要だと感じるから。

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