東京国立近代美術館『ヒルマ・アフ・クリント展』、東京ステーションギャラリー『タピオ・ヴィルカラ 世界の果て』を観る。どちらも素晴らしいが、ヒルマ・アフ・クリントについてはようやく実物を観られ感慨深い。死後20年間は作品を公にしないように、という作家自身の遺言もあって長らく忘れ去られていたが、2013年のストックホルム近代美術館での回顧展を皮切りに、2018年グッゲンハイムなど各地を巡回し、にわかに評価が高まっている。美術界での評価はさておき、ブラヴァツキー夫人の神智学をはじめとした当時の神秘思想からの影響も色濃く、僕としてもとても好みの作風で、学生時代に知っていたらもっと美術が好きだったかもしれない。タピオ・ヴィルッカラは、妻のルート・ブリュックともども以前から観る機会に恵まれてきたが、今回改めて作品に触れてみて、その木彫作品の面白さに目が留まる。それにしても、ここ数年の土日の東京の美術館の混雑具合には参ってしまう。せめて写真撮影は平日のみに限定するなどの施策で緩和できないものだろうか。
夜は秋葉原CLUB GOODMANで七尾旅人さんのライブ。コロナ禍で行われていたクラウドファンディングの返礼品として企画されていたライブだが、なかなかスケジュールがまとまらず5年越しに開催される運びとなった。僕自身は、クラウドファンディングに対して少し違和感を持っていたため、知人が企画しているもの以外についてはあまり積極的に参加してこなかったのだけれど、2007年の京都造形芸術大学の学園祭「瓜生山祭」で一緒にライブを観た友人が、僕が小学生以来の旅人リスナーだということを覚えてくれていて誘ってくれたのでした。ライブはとっても良かったのだけれど、明らかに体調が良くなさそうな、それでも返礼品だからライブをしないといけない旅人は、MCも終始ヒリヒリするような感じで、急に自分が加害者になってしまったように感じる。ただのアーティストとファンだった旅人と僕との関係は、クラウドファンディングを介して債務者と債権者のようなものになり果ててしまったように思えてきて少し淋しい。クラウドファンディングに対する違和感の正体が少しだけ分かったような気がした。
感情を使い過ぎて疲れた翌日は、ジュンク堂書店 藤沢店と茅ヶ崎市美術館『美術館建築 ― アートと建築が包み合うとき』に行って頭だけを使う日にする。実物を見せることの叶わない建築の展覧会というのは難しいなといつも思う。内藤廣「島根県芸術文化センター」など行ったことのある館についての展示は、「なるほど、こうなっていたのか」と訪れた時の思い出とともに面白く観られる。つまり、行ったことのない美術館には早々に行かなくてはならない。行ったことのない大型書店にも行かなくてはならない。僕が京都BAL店で働いていた頃にオープンした藤沢店は、総面積881坪とのことなので申し分ない広さ。旅人に誘ってくれた友人がイベントに参加したというので、良い機会だと『歴メシ! 決定版――歴史料理をおいしく食べる』(遠藤雅司、2022年、晶文社)を買ってみる。そのほか、充実している旅行書棚から『大連・旅順歴史ガイドマップ』(木之内誠・平石淑子・大久保明男・橋本雄一、2019年、大修館書店)を、そのほか書店員さんが意図を持って面陳していそうなタイトルから『外国語を届ける書店』(白水社編集部編、2024年、白水社)、『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(南陀楼綾繁、2025年、皓星社)、『ミルクとはちみつ』(ルピ・クーア、野中モモ訳、2017年、アダチプレス)を。初めての店舗でも、本を選びながら書棚の間を巡っていると心が次第に落ち着いてくるから不思議だ。