生活綴られ方練習

What a Wonderful World

核抑止力が本当なんだったら、今カシミールで起こっていることは何なのだろう。

近頃は夜中に眠っても夜明け前に目が覚めてしまう日が多い。いっそ明かりを点けて本でも読んでしまうのが良いのだろうけど、まだ暗い夜を追いやるように散らしてしまうのももったいない気がして、布団の中でだらだらとSNSを見てしまう。それはそれで情報収集にもなっているから良しとしているが、今日は日本女性学会の代表幹事が任期半ばで辞任したという報せとその説明を見かけて驚く。昨年の大会において、とある分科会が差別的であるという批判を受けて学会内で調査を進めているということは知っていたが、その調査報告書がまとまって以降のごたごたが辞任の理由のようである。どうやら調査報告書の発表直後に、同調査にも関わっていた一部の幹事の名義で、調査報告書の結論自体に対する否定とも取れる声明が発表されとともに、学会外部の人々にも向けたかたちでその声明への賛同の呼びかけがなされたということらしい。長大な調査報告書を読んでみるに、その内容は十分に真摯なものだと受け止められるし、確かに当の分科会自体は運営に至らぬところがあったように思われるものの、うがった見方をするならば長い報告書を多くの人が読まないだろうことを当て込んでの、誰もが賛成しやすい差別反対といったふわっとした文言のみで、当報告書を否定しかねない声明に賛同を募るという手法は、昨今のSNSを中心にして起こる議論にもならない様々ないざこざの縮図を見るようで、心がどっと疲弊する。せめて声明に賛同した方たちが当の調査報告書に一度は目を通していると思いたい。そうでなければ対話も成り立たなくなって、アカデミズムまでもがプレゼンと数の力で動いてしまう世界になってしまう。

こんな気分の時には本屋に行くのが正解。日本女性学会の代表幹事を辞任した佐藤文香さんの本は、そういえば読んだことがなかったと『女性兵士という難問』(2022年、慶應義塾大学出版会)はとりあえず買いましょう。特に独裁体制に対するレジスタンスなどで女性兵士の活躍が好意的に取り上げられる報道などを見るにつけ、もやっとした気持ちを抱えてきた自分にとりましても、非常に興味深い難問です。本来、議論というのは知的に面白く建設的なものだったはずなのにと残念に思うことが今回の女性学会の件に限らず増えたように感じる。エキサイティングな議論に触れたくて、野矢茂樹さんの論考に対する9人の哲学者からの批判と批判に対する応答をまとめた『野矢哲学に挑む』(金杉武司・塩野直之・髙村夏輝編、2024年、岩波書店)を。中高生の頃に野矢先生の『無限論の教室』(1998年、講談社現代新書)に出会い、論理学の面白さの片鱗に触れていたことは、大学入学時に成り行きで工学部情報学科に入ってしまって数学基礎論などの凡人には理解不能としか思えない勉強をする羽目になってしまって相応の挫折感を味わっても数学自体を嫌いにならなかったという意味で、ちょっとした救いだったように今は思う。夜は寝落ちする直前までお酒を飲みながら読むし、まだ暗い朝は読書気分じゃないから布団の中の読書は遅々として進まないのだけれど、枕元に置いてちまちまと読んでいる本のうちの1冊『失われた「文学」を求めて【文芸時評編】』(仲俣暁生、2020年、つかだま書房)で採り上げられているのを読んで気になっていた『西欧の東』(ミロスラフ・ペンコフ、藤井光訳、2018年、白水社)も購入。ブルガリア出身の新鋭によるデビュー短編集だそうで、タイトルからしてが境目を感じさせ面白そう。引き続き物語が必要な気分だ。

なんだか暗い話ばかりが続いてしまったが、実生活ではそれなりに楽しくやっております、という話を。ジャズのことを知らなさ過ぎるなと思って、何か楽しくお勉強できたらとハワード・ホークスの1941年の映画『ヒット・パレード』をサブスクで観る。"A Song Is Born"という原題を持つこの映画は、ホークス自身による『教授と美女』という映画のリメイクだそうで、世界の音楽史を編纂し録音しようという壮大な計画を進めている教授たちが、自分たちのプロジェクトに今まさにアメリカで巻き起こっているジャズ音楽が抜けていることに気づいて、ナイトクラブなどに潜入して女性シンガーを録音のためにリクルートするも彼女はマフィアの情婦らしく……といった他愛のない、そして愛すべき古き良きミュージカル・コメディなのだけれど、ルイ・アームストロングやライオネル・ハンプトンなどのミュージシャンが本人役で出ていて、なんというか華々しい時代のハリウッドを享受できるのです。おカタいクラシック音楽研究者役として出演しているベニー・グッドマンのわざとらしいプレイなんかも最高。標題の"A Song Is Born"という歌詞が歌われるのと同じ節回しで、サッチモが"Jazz was Born"と歌っている。あの大きな口で。世の中には目を覆いたくなることばかりだけれど、少なくともジャズは人類の手によって生まれたのです。

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