このテキストサイトにも頻繁に登場している友人のダンサー辻本佳さんの出演する作品を観るために日帰りで東京へ。北村明子『Soul Hunter』は、人類学者レーン・ウィラースレフによるほぼ同名の著作『ソウル・ハンターズ』(奥野克巳・近藤祉秋・古川不可知 訳、亜紀書房、2018年)からインスピレーションを得たという、「狩猟」や「アニミズム」をキーワードに据えたエネルギッシュな作品でした。北村明子作品に特徴的な、空手の組手のような丁々発止の緊張感ある群舞に息を呑む。そのウィラースレフさんのご本は未読ですが、原始の時代から連綿と続く狩猟という行為についてシベリアの狩猟民に取材した内容である一方、北村さんはフィリピンのルソン島でリサーチを行ったそうです。当日パンフレットには、静岡県立大学の米野みちよ教授によるルソン島北部の山岳地域コルディレラ地方の暮らす先住民についての文章が寄せられています。いわゆる「イゴロット」と総称される人々のことかと思われますが、Wikipediaによるとフィリピノ語で、「i」は「に関する」と「gorot」は「山の人」で、「山の民族」を意味するそうです。山の民ですね。
日本で狩猟する「山の民」というと、「サンカ」とか「山立(やまだち)」を語源とするという説もある「マタギ」といった人々のことが真っ先に思い浮かびます。ドングリの不作によるらしいクマ被害が連日報道されていて恐ろしいと思いつつ、またそれらを仕留めるマタギの人たちのことが気になってきたりして、谷川健一でも読み直そうかしらんという気分です。クマによる被害というと、日本史上最悪の熊害ともいわれる「三毛別羆事件」が思い起こされますが、北海道登別市にある「のぼりべつクマ牧場」での展示では、元々ヒグマの生活圏内だったところに開拓民が村を作ってしまったというような説明があったように記憶している。少し前にはアフリカで、ゾウの通り道だったところにホテルを建ててしまい、連日ゾウがホテルに訪れているというような微笑ましいニュースもあったけれど、ホモ・サピエンスの繁栄ぶりに手を焼いている野生動物は数え上げるとキリがなさそうです。のぼりべつクマ牧場には、「ヒトのオリ」と呼ばれる、人間側が檻に入ったような視点で屋外で過ごしているヒグマを鑑賞できる設備があって、購入した餌を窓越しに与えることもできました。それゆえに、ヒトが檻の中に入った気配を確認するやいなやヒグマたちは一斉にこちらへやってきて、凄まじい唸り声とともに涎だらけの牙を餌が放たれる場所へと振り向けてくる。その獰猛な様子に圧倒されると同時に、アイヌにとっては「キムンカムイ(=山にいる神)」とまで呼ばれる気高い獣たちが、飢えた眼で餌に群がる光景に何となく寂しい気持ちにもなったのを今も覚えている。
今日11月8日は七十二候でいうと立冬の最初の候「山茶始開(つばきはじめてひらく)」。ラジオでは朝からずっと「立冬とは思えない」気候だという話題が繰り返されている。今年の暑さが異例だと良いのだけれど、きっと年々ますます進行していく変化なのではと、ホモ・サピエンスの活動による全球的な気候変動に脅えながらも、あまりに気持ちの良い天気にここぞとばかり寝具類を洗濯する。何とも暗くなるニュースばかりだけれど、心地良い睡眠が誰の枕にも訪れたら良いと、「眠れない夜」がテーマの『ラジオ深夜便』を聞き流しながら考えている。2番目に好きなラジオ番組ですからね。