2026年5月3日(日)から17日(日)まで、京都のUMMM Studioにて、ダンサー辻本佳による写真展『滞』が開催されます。つい先日も新作公演を終えたばかりの作家が、舞台作品と並行して制作してきた写真作品などが展示される予定です。
星明かり一つ差し込まない深い森。自然豊かな三重県の南部に育った辻本は、幼い頃、近所にあったその森で過ごすことが好きだったそうだ。両の目を開けていても自分の指先すら視認できないその場所では、自らの身体が暗闇に溶け出していくような感覚がある一方で、視覚以外の感覚においては、よりはっきりと自身の輪郭や運動への意識が際立ったという。本展のメインビジュアルにも使われている、長時間露光によって夜の景色に潜む光を掘り起こす一連の作品は、そのような幼少期の体験に根ざしているのかもしれない。一見して真っ暗闇としか思えない世界にありながら、それでも確かに息づいている「色」や「形」を、ただ辛抱強く待ち続けることのみによって採掘していくような営み。
写真を撮ることを英語で"take a picture"と言うが、このテキストサイトでもたびたび言及している、カジャ・シルヴァーマン『アナロジーの奇跡――写真の歴史』(月曜社、2022年)によれば、写真とはかつて、自然の景色を「take(取る)」するものではなく「receive(受け取る)」するものだった。辻本が「空間に留まり、撫でるように関わる方法を模索」すべく制作する作品群は、まさにこの初期の写真術の探求者と態度を軌を一にする。展覧会名『滞』に"Tai|Slowly,Slowly"という英題を与えていることからも分かるように、ゆっくりと時間をかけることでしか「receive(受け取る)」することの叶わないイメージの存在は、本物と見紛うフェイク映像がいとも簡単に作れてしまうこの時代なればこそ、アクチュアリティを持ったものとして目に映るのではないか。
展覧会初日の5月3日には、18時からレセプションも予定されていて、おそらく僕も会場にいると思うので、おしゃべりしましょう。「一寸先は闇」という慣用句が比喩とも思えない21世紀の日本で、真っ暗闇のなかにも確かに光が存在していることを、物理的に感じられる機会になればいいなと思っています。