期日前選挙も前日の夕方に済ませたので、選挙当日は少し遠出してお蕎麦を食べに。松本から岐阜の高山へと向かう野麦街道沿い、稲核という地域にある昔ながらの大衆蕎麦店といった風情のお店で、蕎麦の味うんぬんよりも存在そのものがありがたいタイプのお店だった。蕎麦屋からの湖畔という信州を堪能する理想的な流れ。
選挙は大方の予測通り、参政党の大躍進といった具合で先が思いやられる。かなり議席を減らしたとはいえ自民党の勢いがそこまで衰えていないことも。チームみらいが1議席取ったことも、友人知人に参政党支持者を見かけないことに安堵しつつ、チームみらいに投票したという人は実際にいたので、さもありなんという気持ち。SNSでは党首のことを評して、オードリー・タンではなくイーロン・マスクだと警鐘を鳴らしている向きも見られるが、ペイパルマフィアに代表されるような西海岸的なテクノリバタリアンとも少し異なるような印象を受け、あえて言葉を選ばず率直に言ってしまえば稚拙というか純朴というか、多くの人が悪意から行動を取ることがあること、仮に自分を利する行為であっても様々な理由から必ずしもその選択肢を選ぶとは限らないことなどを考慮に入れていないのではないかと思ってしまう主張が気になる。それはちょうど今たまたま呼んでいる『ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀』(エリック・A・ポズナー/E・グレン・ワイル、安田洋祐監訳、遠藤真美訳、2019年、東洋経済新報社)が示してみせるテクノロジーが実現する理想の社会にも似ているのかもしれないと思ってしまった。
帯文で「若き天才経済学者が描く、資本主義と民主主義の未来」と煽られる本書の主旨としては、いわゆる資本主義社会が格差を拡大しているのは、自由な市場が原因なのではなく、むしろ市場の機能が制限されているからだという、そう言ってしまえば特に真新しい主張ではないのだけれど、その具体的な方策が提示されているところが思考実験として興味深いところ。たとえば、自分の所有物についての価値は自分で決めることができるが、それよりも高い価値を見出した人がいれば所有権(というよりは利用権といった方が近いか)はその人に移行するというもの。土地などを想定すると分かりやすいが、他人に奪われたくなければ自ら設定する価値を高く見積もらねばならないものの、そうするとそれ相応の税を納める必要があり維持費がかかる。その結果、最も効率よく土地利用できる人の手に渡るというような、根源的という意味でも過激という意味でもラディカルなマーケットを作り出そうという話のようだ。そのほか、移民政策については安い労働力を保持できることで、移民増加に伴う利益を最も被るのが大企業であり、経済全体としては大きくなるといってもワーキングクラスがその恩恵に預かることは滅多にないという観点から、国民誰しもが1人分のみの移民受け入れを可能にするといった制度や、選挙のたびに1人1票の投票権を与えるのではなく、いわば貯蓄のように行使しなかった投票権を貯めることでここぞというイシューに自分の票を投じることができるようにするという制度などが紹介されている。所有権の話でいえば、たとえば大切な人の遺品のようなものが他人の手に渡らないために高いコストを払うことが懸念されるが、そういうものに対しては税率を低くすることで価値を高くしても所有コストが高くならないようにするなど、こういった制度が引き起こすであろうデメリットに対する対応策も本書では紹介されているのだが、僕の理解がまずいのか、そんなもんなんですかねーと首を傾げたくなる。どうしても悪用されることばかり考えてしまうのは、僕の性格の問題なのでしょうか。土地利用ならば大資本による再開発はいとも簡単に進んでしまうだろうし、移民を受け入れる人の行為や態度に瑕疵がないか、極端な考え方を持つ特定の組織によって危うい投票が行われないか、などなど色々と考えてしまう。そもそも自分にとって何が最適の行動なのか、歯を食いしばるようにして日々を生きている人にとって、そういうことを考えるために必要なコストというものを低く見積もりすぎていないかというのもある。複雑なことを考えることって、とても大変だし疲弊してしまうもの。だからこそ、分かりやすいスローガンを大声で喚き立てる政党が急激に拡大しているのではなかったか。
選挙のたんびにナーバスになってしまうのもいい加減こりごりなんだけど、どれだけ大変であっても考え続けるという、少なくとも無駄ではないコストを払うことにはやぶさかではありません。ラディカルマーケットという考え方についても悪しざまに書いてしまったが、これは本当に僕の理解が追いついていないだけという気もするし、単純に思考実験は楽しい。政治の話を、つまりは来たるべき未来の話をしましょう。あるいは、ほとんど望むべくもない希望の話を。「素面で受け止めるにはあまりに辛い」ことも、お酒の席でなら。