桜の季節ですが、水の多い松本の街ではいたるところに黄色い水仙が咲き誇っている。少し頭を垂れて水面を覗き込むような姿は、まさにギリシャ神話のナルキッソス。七十二候では今年は4月5日からが「玄鳥至(つばめきたる)」だなとぼんやり考えていたら、いつもの散歩道の川面の上を本当にツバメが一羽飛んでいる。春の嵐というのかまだ冷たく強い風に吹き飛ばされそうになっていて、ヨーロッパの各地に伝わる「一羽のツバメが来ただけでは春にはならない」という格言を身を挺して体現している。花に鳥、風の話までしてしまって、かくなる上は月の話をするしかないわけですが、4月2日に見た満月が実に見事でした。
「アルテミス計画」のオリオン宇宙船が月へ向かう軌道に入ったというNASAのニュース。ジョイス・ラムさんの作品でも言及されているアルテミス計画のアルテミスとは、人類が初めて月面着陸を成し遂げた「アポロ計画」の名前の由来となったギリシャ神話の太陽神アポロンの双子だ。計画の目標の一つに「女性の月面着陸」を掲げていることから、月の女神の名前を採ったというわけでしょう。出鱈目な大統領による信じられないようなニュースばかりが聞こえてくるアメリカからの、久しぶりの良い報せだ。けれども、初の月面着陸を果たした1969年から半世紀以上が経ち、ソ連との宇宙開発競争の必要もなくなって宇宙関連の計画にこのところあまり乗り気とも思えなかったアメリカが、ここに来て急ピッチで計画が進められている背景には、ますます国際的な存在感を増す中国への対抗意識があるというので、何だかなという気持ち。
購入した本の備忘録。引き続き浅川兄弟について調べているので『工芸とナショナリズムの近代』(木田拓也、2014年、吉川弘文館)を。ことほどさように、科学も芸術も政治と無関係ではいられないようです。前回書いた通り、辻本佳さんの写真展も控えているので、写真論のような写真論でないような何かを拾い読みしたいなと思って、書棚をぶらぶらしていたら、ARICAでの活動でも知られる詩人で批評家の倉石信乃さんの『孤島論』(2025年、インスクリプト)が目に入る。インスクリプトらしい間村俊一さんの装丁が美しい。「本土」から遠く離れた「孤島」ならではの、文化のあり方を写真から読み解くといった内容か。地理的な条件や「中央」との距離によって文化が変容するという意味で、昔からクレオール諸語にも関心がある。自分自身は語学がまったくできないので、『ピジン・クレオル諸語の世界』(西江雅之、2020年、白水社)を理解できるか分からないけれど。
先月に引き続き、松本CINEMAセレクトで『水の中で息をする ―彼女でも彼でもなく―』を鑑賞する。出町座での上映の際に開催されたというエミリー・パッカー監督と菅野優香先生とのトークイベントのレポートが勉強になる。観客のなかに顔見知りのアーティストの方がいて、聞けばこの映画のためだけに東京からバス往復でいらしたという。最近、興味深く活動を追っている作家だったので、上映後少し話せて嬉しい。